ササヤ書店

ササヤ書店

先日の徳兵衛大明神さんのあと、駅前ビルの3階から2階へ降りるといくつかお店などがある。
2階に来たのは初めてだったので、なんとなく案内板を眺めていると、ほとんどがクリニックやオフィスの中で「ササヤ書店」とある。こんなところに本屋さんがあったなんてと驚きつつ、なぜだか店名を物凄く良く知っている。

見覚えのある店名と駅ビルの上に書店があるとも知らなかったので不思議に思いながら、案内板にある店の場所まで行ってみると「楽譜 ササヤ書店」という立て看板が見えて腑に落ちた。
数年前に亡くなった父が、趣味で音楽と楽器を嗜んでいて、実家には山のようなレコードがあり、それと共に楽譜もたくさんあった。B6サイズほどの楽譜をめくるとササヤ書店の値札タグの文字が多くの楽譜に入っていたので、それで名前を良く知っていたからだ

店は上から下まで楽譜でびっしりで、なんだかとてもゆったりとした時間が流れている。
店主さんと思われる穏やかで上品な男性に思い切って話しかけてみると店は駅前ビルができた時からあって、その前は路面店にありましたよとゆったりと、とても優しい声で答えてくれた。

きっと父がお世話になっていたと思いますと挨拶をして、楽譜をめくったところに貼り付けてあるササヤ書店の当時のタグのデザインの話など、聞いた事にとても穏やかに答えてくださり、もしかすると父もこの店主さんと色々な話をしたかも知れないなんて思いながらお話をさせていただいた。

家に楽譜がたくさん残っている旨伝えると、とても貴重なものだと思いますよと仰った。
それでは楽譜を必要とされている方や引き取ってくださる所などご存知ではないでしょうかと尋ねたところ、残念ながら知らなくて、もうここにあるこういった楽譜たちもあまり売れなくなっているので…と寂し気に呟かれた。

会社帰りに足繫く通っていたのであろうササヤ書店に父の面影が残っている気がしてなんだか離れがたかったのだけれども、突然厚かましくもお話しをさせていただいた事に御礼と感謝を述べて店を出て、エスカレーターや通路に父が歩いたであろう姿を思い浮かべながら駅ビルを歩いた。

昔初めてのアルバイトで行った大きな郵便局があった場所には、つい先日新しいビルが開業した。駅向こうの貨物線路の跡地には大きな公園ができた。いつかこの駅前ビルの風景も大きく変わるかも知れない。
けれどもまた、まだ知らない場所に会いに行きたい。